露わになる思想統制条例としての本質

札幌市共生社会推進条例

第3回 札幌市ユニバーサル推進検討委員会(令和6年3月12日)

3回目で、共生社会推進条例の原案が示されます。さんざん議論されたマイノリティ・マジョリティの言葉は一切出て来ませんが、委員は大絶賛。議論とともに思想統制条例の本質が露わになっていきます。最後のまとめでユニバーサル推進室長が行政の中立性を疑わせる発言を行いました。

DEI条例の全容が明らかに

第3回検討委員会も基本は前半は共生社会推進条例、後半はユニバーサル展開プログラムについての検討です。「共生社会推進条例」については、「基本的な考え方」と「(仮称)共生社会推進条例の 骨子案」が示されました。

最初に松原推進担当課長から資料説明があります。ここで「これまでの会議でいただいた委員の皆様のご意見を踏まえ、事務局で作成させていただいたものです」と発言していることから、条例案が過去2回の検討委員会で交わされた、高齢者から外国人、LGBTまであらゆるものを「マイノリティ」という袋に詰め込んだ上で、社会をマイノリティ対マジョリティの分断構造で捉えていく偏向した思考が、この条例のベースになっていることが分かります。

資料1の「基本的な考え方」では、そのことが強く示されています。検討会議の意見を踏まえて条例制定にむけた「基本的な考え」を4つにまとめています。そしてこの条例が日本で初めてのDEI条例であることが露わになります。

第3回札幌市ユニバーサル推進検討委員会の議事録
https://www.city.sapporo.jp/kikaku/universal/iinkai/documents/iinkai03-gijiroku.pdf 

資料1(仮称)共生社会推進条例の骨子案作成に当たっての基本的な考え方 https://www.city.sapporo.jp/kikaku/universal/iinkai/documents/iinkai03-04-shiryo1.pdf

資料2(仮称)共生社会推進条例の骨子案 https://www.city.sapporo.jp/kikaku/universal/iinkai/documents/iinkai03-05-shiryo2.pdf

資料7 ユニバーサル展開プログラムhttps://www.city.sapporo.jp/kikaku/universal/iinkai/documents/iinkai03-10-shiryo7.pdf

基本的な考え① 差異による分断

○松原推進担当課長 人は皆、年齢、性別、性的指向やジェンダーアイデンティティー、障がいや病気の有無、国籍、民族、言語、宗教、文化など、無数の多様な違いを抱えています。

価値観や考え方等の内面的なものを含めて捉えると、誰もが何らかの違いを有する当事者であると言え、その対象は一部の方に限られるものではございません。

各人が対話を重ね、それぞれの違い等について理解を深め、支え合う、共感に基づく心のバリアフリーの醸成に寄与する内容とすることが求められると考えております。

違いがあっても共感できるのは、そこに「共通点」があるからです。共生社会は本来、「差異」ではなく「共通」に基づいてつくられなければならないのに「差異」ばかりが強調されます。EDIが社会の分断を招くと言われるのは、この極端な「差異」の強調にもあるでしょう。

基本的な考え② マジョリティの意識改造

○松原推進担当課長 多様な社会的障壁を取り除き、誰もが社会から孤立することなく安心して生活できるよう、障がいの社会モデルの考えを他分野にも波及させていき、様々な取組を行うことによって当事者の生きづらさを社会全体で解決していくという包摂的なまちづくりの視点が求められると考えています。

長々と言っていますが、包摂的まちづくりとは「社会的障壁を取り除く」ことです。社会的障壁とは「人々の意識」です。全体としてこの検討会議のメンバーが「マジョリティ」と呼ぶ人々の意識改造が条例の目的となっていきます。

基本的な考え③ 官民挙げた思想統制

○松原推進担当課長 行政、市民、事業者それぞれが異なる方向性の下で取組を進めることがないよう、自らの責務や役割を相互に認識し、創造性の向上などの多様性が有する効果も踏まえながら、社会のあらゆる場面において連携・協働の上で取組を進めていくことが求められるというふうに考えています。

「違いを認め合う」ように人々の意識を変えていくことを、行政と市民が一体となって社会のありとあらゆる場面で推進していくとしています。本稿のような「異論」は認められません。属性の多様性は認められても、考え方の多様性は認められないのが共生社会です。共生社会推進条例はだんだんと思想統制条例に近づいていきます。

基本的な考え④ 子どもの思想教育

>特に次世代を担う子どもも参画しやすい取組を継続的に展開していく必要があると考えています。

「未来につながる取組」といえば、何か前向きな印象を持ちますが、内容は前回前々回の検討会議で強調された因習に染まっていない子どもたちへの思想教育です。本稿では割愛していますが、今回の委員会でも「子ども」への働きかけがさまざまに語られています。

感激で心が震えました

以上のような原案について委員から意見を聴取していきます。しかし、この条例案には、マイノリティという言葉も、マジョリティという言葉もなく、マジョリティがマイノリティの目線で自らを見つめ直すことが共生社会だ———という前回検討会での提言もありません。それでも最初に発言した山口委員は

○山口委員 感激で涙ぐみました。それは、ここで交わされた大切な意見が美しい文章に再構成されていたからです。ほかの資料の各所にもたくさんの思いが取り込まれており、魂が宿っている、そんな印象を受け、心が震えました

と最大限の賛辞を贈ります。佐藤委員は、

○佐藤委員 この骨子案を見たとき、よく皆さんの意見をここまで反映し、まとめてくださったなと思って、本当に感激しました。

条例の全体像がすごく整理されており、何となくぼやっとしていたのですが、ああ、こういう形になるのだと見えてきて、何か、ほっとしたような気持ちです。また、条例ができるのが楽しみだなとも感じました。

とこれまた絶賛です。道下委員も

○道下委員 皆さんの意見がまとまっていて、素敵だなと思ったのですけれども、特に資料1の誰もが当事者であるという言葉が素敵だなと感じました。

また池田委員は

○池田委員 私も、これまでの議論が活かされ、随分整理され、つくられたなという印象を受けました。特に、前文、あるいは、目的にもありますけれども、誰もがつながり合うというフレーズなんかはしっかりと生かされていると思いました。

と声を上げました。マイノリティもなく、マジョリティもない。2回にわたって真剣に議論されたことがまったく文言になっていないことに委員は疑問が無いのでしょうか。

北原委員の影響力

一方で条文案について、細かな注文も付きます。北原委員は、条例案の「前文」の「(札幌市は)外国の先進の英知を取り入れていくことによって、飛躍的に成長してきた」との文言に注文を付けます。

○北原委員、色々な情報提供をしたということだと思うのですけれども、例えば、そのように雇用されていた外国人の中には、当時、アイヌ民族が使っていた毒矢の使用を禁止するに当たって意見を出し、なぜならそれは野蛮だからということで、かなり偏見に基づいた施策を進めたという側面もあります。それも含め、貢献もあったと一般的には認知されていると思うのですけれども、あえてここに出すのかと私は感じました。

この検討会議全体を通して北原委員の影響力は強く、論調を決める力を持っています。この提起でもすぐに梶井座長が反応して、全体に北原委員の意向に対する同調を求めます。

○梶井座長 先進の英知は、欧米人だけではなく、日本人自身やアジアなど、いろいろな方からの英知を北海道では開拓期に取り入れたと思いますので、外国とあえて限定しないほうがいいのではないかと私も感じたところです。これについて皆様のご賛同をいただければ、そういう方向で考えていければと思いますけれども、よろしゅうございますか。(「異議なし」と発言する者あり)

他の委員に対してはこのような反応はないので、アイヌ民族である北原委員の特別感が伺える場面です。

この一文は、札幌市が推進する「北海道・札幌GX金融・資産運用特区」による外国からの投資を念頭に置いたものと見られ、札幌市としてこの展開は少し残念であったでしょう。

理念の浸透度を測る検証機関

続いて池田委員は、条例案を絶賛しつつも「札幌市共生社会推進委員会」のあり方を問題にして次のように発言します。

○池田委員 これは理念条例なので、個別施策がこの理念条例との整合を求められるという理解ですよね。そうすると、札幌市共生社会推進委員会というものが、ある意味、他の個別の関係の施策がうまく条例に沿って機能しているのかをチェックできるかどうかが大事になると思うのですね。そして、そのとき、個別の施策との連携も大事になってくるわけですが、そのニュアンスがあまり見えていないような気がしました。

共生社会条例が、お題目だけで終わらないように実効性を求めました。これを受けて梶井座長は次のように応えました。

○梶井座長 これは理念条例ですが、検証する仕組みも一緒に考えていけば、それに沿って実効性が担保できるのかなと思います。

しかし、この「検証機関」は、次の橋副座長の発言と重ねると、薄気味悪いものとなります。

○橋副座長 理念浸透の方法は、今後、具体的に検討されていくものだと思いますけれども、普及啓発や理念浸透の活動というのは、おそらく、この条例の一番の核になるものになるのではないかと感じております。そういった意味でも、これがしっかりと実現されるように取り組んでいただければなと思います。

この条例の核心は「理念の浸透活動」にあるというのです。つまり特定思想の強要です。市民に「理念の浸透」が図られたのか、検証機関を設けてチェックするというのは、全体主義ではないでしょうか?

バックラッシュの恐れ

この条例の「思想性」について、梶井座長は気にしているようです。世界的に高まっているDEIについての反発を「バックラッシュ」と表現しています。

○梶井座長 今、バックラッシュのような流れもありまして、共生社会や多様性という言葉に対して反対をするというような流れも社会の中で起きているとひしひしと感じることがあります。ポリコレ批判ということもありますし、トランプ現象ということもそうです。

そういう中で共生社会の実現に向けた条例をつくるということには大変な覚悟が要るのだろうと思います。

感動ばかりしていてはいけないということです。私も感動しているのですけれども、そういうことで足元をすくわれないような、批判に耐え得るようなものであってほしいと感じております。

座長のこの発言を受け、バックラッシュにどう備えるかという議論が交わされます。相内委員は、バックラッシュを乗り越える方法として、共生社会の本質にある「自己中心性」を強く打ち出すべきだと主張しました。

○相内委員 これは僕個人の話になってしまいますけれども、ユニバーサルな社会、共生社会を実現してほしいなと思うのは、変なオブラートに包まずに言えば、一番は自分のためにそうなってほしいのです。自分のためにそうなってほしくて、結果的にそれがほかの人の幸福にもつながっていればいいな、そんなすばらしいことはないなと思っております。

ただこの相内委員の、あからさまな〝本音〟は、意識の高い座長には嫌われたのか、ここで議論が打ち切られて、「ユニバーサル展開プログラム」に議題が移ります。

「他の立場からの物の見方ができない」人々

ユニバーサル展開プログラムの議論は割愛しますが、よほバックラッシュを気にしているのか、委員会の締めくくりに登場した山内ユニバーサル推進室長は次のように語ります。

○山内ユニバーサル推進室長 一方向から考えているとどうしても他の立場からの物の見方ができず、結果として、先ほどバックラッシュという言葉もありましたが、そういう話につながっていくのかなと感じました。

これはきわめて問題のある発言です。バックラッシュ=トランプ大統領誕生させたような世界的に広がるDEIへの反対世論ですが、これを「他の立場からの物の見方ができない」ために起こっているというのです。

中立な行政であれば、そのように決めつけず、なぜバックラッシュが起こっているのか、「他の立場からのDEIの見方」を検討すべきではないでしょうか。

行政がDEIへの反対意見に対して「他の立場からの物の見方ができない」人々と偏見を持ってしまったがゆえに、次の発言となります。

○山内ユニバーサル推進室長 我々のチームの中でもそれは非常に意識していまして、この人だったらどう考えるか、この人だったらどう考えるのかと、様々な方の立場について考えながら言葉を整理し、まずはここまでたどり着けたと思っております。

すなわち、DEIへの反対勢力を意識して「言葉を整理」したというのです。これがあれほど議論したマイノリティ対マジョリティの対立構造がおくびにも出ない理由と思われます。おそくらは、この委員会を開催するにあたって、「揚げ足を取られない」文言にすることに理解を求める根回しもあったのでしょう。

このようにして共生社会推進条例の検討は、破壊的リベラリズムとも言うべき本邦初のDEI条例という「本音」を美しい言葉で覆い隠しながら進んできます。

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