第5回札幌市ユニバーサル推進検討委員会(令和6年12月17日)
圧倒的否定意見に埋めつくされたパブリックコメントに委員たちは衝撃を受け、また気を落としました。たくさんの誤解が確認され、むしろ条例の必要性が確かめられたと強気な梶井座長も、ついには事務局に思想統制的な文言の修正を求めます。パブリックコメントには意味がありました。さて札幌市はどう受け止めるでしょうか?
議事録https://www.city.sapporo.jp/kikaku/universal/iinkai/documents/iinkai05gijiroku.pdf【資料1】パブリックコメントの実施結果についてhttps://www.city.sapporo.jp/kikaku/universal/iinkai/documents/iinkai05_04shiryo1.pdf【資料2】オープンハウスの開催結果についてhttps://www.city.sapporo.jp/kikaku/universal/iinkai/documents/iinkai05_05shiryo2.pdf【資料3】関係附属機関等における主な意見についてhttps://www.city.sapporo.jp/kikaku/universal/iinkai/documents/iinkai05_06shiryo3.pdf【資料4】パブリックコメント資料(抜粋・修正版)https://www.city.sapporo.jp/kikaku/universal/iinkai/documents/iinkai05_07shiryo4.pdf【資料5】ユニバーサル関係施策・事業の進捗状況(2023年度実績)https://www.city.sapporo.jp/kikaku/universal/iinkai/documents/iinkai05_08shiryo5.pdf
反対意見で埋めつくされたパブリックコメント
令和5年11月から始まったユニバーサル推進検討委員会は今回が最後です。第4回で固められた素案をパブリックコメントやオープンハウス(パネル展)の他、関係団体に示して意見をもらった結果と第2回委員会で出された意見を取り入れた条文の修正案が示されました。
なお、今回には北原委員、柳谷委員が欠席となっています。マイノリティ派の急先鋒である二人の不在が、今回の議論では大きなポイントとなっています。
さて、パブリックコメントは、意見提出者数は合計1014人(市内590人・市外327人・不明が97人)であり、意見数は2068件に達しました。

事務局の松原推進担当課長の説明では、否定意見と肯定意見の集計は示されませんでしたが、「条例素案全体に関する意見」では、「本条例は社会の混乱、分断等につながる懸念がある」の81件をトップに、条例に対して反対や疑問を示す否定的意見は319件あったのに対して、肯定的意見はわずか2件でした。
内容は資料に譲りますが、懸念するのはこのパブリックコメントが条例案にどのように反映されるのかが見えないところです。第5回に示された原案は4回で出された意見に基づいた修正版で、委員会はこれで最終となります。
「札幌市パブリックコメント手続に関する要綱」によれば、「第9条 実施機関は、政策案に係る最終的な意思決定を行うときは、前条第1項の規定により受け付けた意見等を考慮しなければならない」とありますから、素通りは許されません。
委員会の最後に山内ユニバーサル推進室長はこう言っています。
我々事務局としては早い機会にこれを条例案として議会に提案していきたいと考えておりますが、そこの部分の意思決定も含めて、今後、庁内で整理していきたいと思っています。
議会に上程される最終案にパブリックコメントが、どれほど反映されたのか、注目です。
文言削除だけで済む問題か?
第5回に示された修正案ですが、前回に出された札幌市身体障害者福祉協会長の浅香委員の「違いという言葉を入れないでほしい」との求めが反映され、数カ所「違い」の文言が削除されています。
しかし、「違い」という文言を削除するだけでよいのでしょうか? この後段で浅香委員は
基本理念の2にしても、誰もが互いを尊重し、理解し合い、支え合いとしてもいいと思うのです。わざわざ違いを理解しなさいと言う意味はないのかなと感じています
と述べています。これは「共生社会推進条例」に対する根本的な指摘です。
共生社会推進条例のなかで「違い」は、下のよう中心理念です。その削除要求ですから穏やかではありません。

「違い」は、心身にさまざまな困難を抱える障がい者を、LGBTやアイヌ民族、外国人などの〝マイノリティ健常者〟と結びつけるブリッジになっています。浅香委員の求めは、そのブリッジを外してくれ! 一緒にしないでくれ! という求めでもあります。
障がい者福祉の立場から「違い」について異論が出たならば、条例全体を見直さなければならないはずです。それなのに「削除しました」で済ますのは姑息というべきでしょう。

誤解が招いた否定意見

反対が圧倒的多数を占めたパブリックコメントは委員たちに強い衝撃を与えたようです。最初に発言したのは第3回委員会において素案を読んで「感激で心が震えました」と声を挙げた山口委員です。
○山口委員 条例に対して肯定的な意見が多く寄せられ、とてもうれしく思っています。一方で、否定的な意見の中には理解が難しいと感じるものもありました。その背景には、過去の経験や価値観があるのだと思います。そして、そうした意見を聞くことも大切だと感じています。
とパブコメが示した現実を受け止め切れていない様子です。活発な発言で知られる山口委員ですが、今回は冒頭の発言以降、終盤まで沈黙を守ります。道下委員も
○道下委員 やはり、全員が納得する、全員がこれでオーケーというものは絶対に難しいなというふうに思っております。
と腕組みしました。これらの発言を受けて梶井座長はこう感想を述べます。
○梶井座長 多様な意見を集めたからこそ、「こういうところで誤解をされやすい」とか、「こういうところで正しい情報が伝わっていないのだ」ということもいろいろ分からせていただいた。
パブリックコメントに寄せられた多数の反対意見、懸念や疑問を「誤解」と整理した上で、「正しい情報が伝わっていない」と、逆に共生社会推進条例について意欲を燃やしました。
この条例をつくる意味はあるのだろうか?
相内委員は、パブリックコメントの
①本条例は特定の価値観を押し付け、市民の多様性を否定するものである。(62件)
②日本国憲法では、基本的人権の尊重、思想・信条・良心の自由が保障されているが、本条例は理念を強制するものであるため、憲法に違反する可能性がある。(51件)
といった意見に強く衝撃を受けました。
○相内委員 「多様性イコール何でもオーケーということではない」という意見がありました。恐らく、多様性という意味をそういうふうに読まれた方がいるのであれば、不安を感じるのは当然だろうなと思っていました。
これも意見を出していただいたからこそ、そうだよなというふうに思えたのですが、「強制されるものではないと思う」と書いていたのはそのとおりだと思います。
佐藤委員は、自身が受けた衝撃をこう表現しました。
○佐藤委員 コメントを見ながら、こんなにいろいろな考え方があって、共生社会自体も理解されていないのだと愕然とした感じで、読んでいくにつれて、私たちが話し合っていた委員会って何だったのだろう、この条例をつくる意味はあるのだろうかと思いながら読ませていただきました。
こうした意見が続き、素案をできるだけ変えないで守ることが使命な梶井座長もさすがにこう事務局に求めます。
○梶井座長 自分たちが一方向に巻き込まれて統合されてしまうのではないかという、まさに共生を強制されるのではないかという懸念を、ひょっとしたらお持ちなのかなと。
結構強く、「一体的に」とか、「市民と行政と事業者が一体となって」とか、そういう立場で読むと、統合という風に感じてしまいそうなニュアンスも出ている感じがしたのです。
誤って統合というようなニュアンスが伝わってしまうような表現があるのであれば、それは私たちの本意ではないので、そこをもうちょっと読み直していただきたい。
私たちは、「市、市民及び事業者が一体となって」「社会のあらゆる場面において」というふうにあまり畳みかけなくてもいいかなと思いました。
だから、「一つの方向に統合しますよ」というような受け取り方をされてものすごく誤解されているところもあると思います。そういう表現をもう一つ見つけたのですけれども、「異なる方向性にならないようにこうします」というような表現もどこかにあったのです。
もう一回そういう視点で眺めてみると、そのほうが誤解を生じさせないという意味でも表現をちょっと変えてもらうといいかなと思ったところもございました。
強制感を抱かせない文言修正は委員会の総意です。果たして最終案でこの委員会意見は反映されているでしょうか?
アイヌ民族の立場から
ここでアイヌ協会を代表して着任している結城委員が発言します。
○結城委員 立場というか、アイヌだからこそ、ずきんずきんと刺さるところがいっぱいあったりして、皆さんもそれぞれ考え方が違うのだなと思いました。意見の中で、「5本条例は北海道開拓の歴史と文化を軽視しており、札幌のアイデンティティを損なうおそれがある」という意見があります。
この言葉に場には緊張が走ったと思われます。しかし、結城委員は、「琴似屯田150年記念事業」の関係で琴似神社の方に呼ばれたことから、次のように意外な発言をします。
○結城委員 開拓とか屯田兵の歴史と、アイヌたちが置かれた歴史的な流れがありますが、面白いことにこの北海道の歴史というのはこれまで両方を一緒に語っていないのです。どちらかが、どちらかがとなってしまう。
今広がる横のものに対しての多様性はイメージしているけれども、過去や未来における多様性というイメージはちょっと少ないのかもしれないなというふうに感じました。未来においても多様性のある文化をみんなで守っていきましょうとか、みんなでそれを感じながら生きましょうというイメージがあったほうがいいのかなとも思ったりしました。
結城委員の「過去や未来における多様性」は「歴史の多様性」ということでしょう。この発言を受けて、これまで意見を出すことが少なかった池田委員は、こう言います。
○池田委員 前回の会議で私もそういうことを言いたかったというのが率直なところで、アイヌの伝統文化も尊重し、そして、和人の、例えば今ありました屯田兵の入植以降の伝統文化も尊重し、それが恐らく多様性を尊重していくということなのだろうと思いました。
ここでアイヌ民族の歴史と和人の歴史を共に多様性として尊重していこうという発言が決まれました。
このように両民族の融和的な発言が続いたのは、開拓の歴史がアンコンシャスバイアスの背景と第3回で発言した北原委員の欠席も影響していると思われます。何が分断をつくっているのでしょうか?
検討委員会として反論を!
もちろん結城委員のような人ばかりではありません。パブリックコメントの否定的意見について、宮入委員は強く反発しました。
○宮入委員 外国人に対する意見がたくさん寄せられています。その中には誤った見解もあります。例えば、「税金投入は日本人の子どもに使うべきだ」とありました。しかし、外国人も税金を払っているわけです。「外国人が来たから治安が悪化する」といった、偏見に基づいた正確ではない意見がたくさん出てきた。
もう一つ言っておかなければいけないのは、「逆差別につながる」というような意見に対してです。そもそも「逆差別」というもの自体が存在しないということも強調したいと思います。
そして宮入委員は次のように提起ました。
○宮入委員 市民全体が合意して、「ああ、いいものができた」となるのは難しいとは思うのですけれども、議論の出発点の一助として、差別の問題を含めて再認識してもらうきっかけとして、この条例があるということを、この条例のどこかに明記しても良いのではないかと私は感じました。
この宮入委員の発言は座長の取り上げるところとなりませんでしたが、宮入委員は諦めません。議論の後段おいて次のように発言します。
○宮入委員 パブリックコメントの意見を受けて、このまま「ありがとうございました」で済ますことができないものもあるように思いました。
よく見かける「差別ではなく、区別である」という見解も、区別だったら許されるということはないという点も、委員会として最低限示すべき見解のように思われます。先述のとおり、「逆差別」についても同様です。こういった見解に対する委員会の見解が全くないまま終わってしまっていいのか疑問です。
委員会として、パブリックコメントについて見解を出すべきだとする宮入委員の求めを、梶井座長は次のようにうまく受け流しました。
○梶井座長 私たちは、信念を持ってこの条例の制定に向かってきたわけです。その意味で、多様な意見があるということも踏まえつつ、ここだけは譲れない、こういうことを言いたかったんだという見解、そこのところをしっかりと確認しておく必要があるのではないかという宮入委員のご意見だったと思います。
それでも納得のいかない宮入委員です。次のように粘ります。
○宮入委員 多様な意見があって当たり前ですし、気づかされたこともたくさんあるということはおっしゃられるとおりですけれども、先ほども言ったように、差別はダメで区別はいいのかみたいな、そういう最低限のところについて、全く委員の見解を示さないままで良いのかという点が疑問でした。
梶井座長は反応せずに「相内委員、お願いします」と別な委員に発言を求めました。
感覚って5秒で変わる
発言を促された相内委員は、かなり〝危険〟な発言を行いました。
○相内委員 僕自身、福祉に関わりながら、行政的な文章に慣れている性質もあったので、ものすごく勉強になったなと思ったのが、この文言だと全体主義的なものを進めているように見えるとか、画一化しようとしているように見えてしまうよと言われて、はっとしたのです。
そういうふうに見えるよと言われた後にこれを見たところ、本当だといろいろなところが気になるようになったのです。感覚ってたった5秒で変わるのだと思いました。
そう言われてみるとそうだな———と、5秒で条例についての見方が180度変わってしまったというのです。パブリックコメントにより委員会の磁力から解き離れたかのようです。この〝変心〟に危機感を抱いた横井座長は、無視したはずの宮入委員の発言を取り上げます。
○梶井座長 パブリックコメントの回答というのは木で鼻をくくったような回答も意外と多いので、その辺はなるべく工夫していただいて、どうしても必要なところがあれば、検討委員会としてはこういうふうに考えたところですと言っていただいてもいいのかなと思います。まさに宮入委員がおっしゃったように、検討委員会としてということですね。その辺もちょっと預けていただいて検討させていただきたいと思います。それでは、次の資料の説明に移っていきたいと思います。
梶井座長は、これ以上話が進むと危ういと思ったのでしょう、パブコメに強く反発した宮入委員に言及するかたちで話題を打ちきりました。
この後、オープンハウス(パネル展)や学校などでの意見徴収結果が検討していきますが、お手盛りなので割愛します。
最後に登場した山内ユニバーサル推進室長は、次のように締めくくります。
○山内ユニバーサル推進室長 今日も皆さんからご意見をいただきましたが、やはり、これを発射台にして継続的に市民の皆さんと意見交換や対話を重ねることで、理念が少しずつ共有できるかなということを、今日、この場でしっかり共有できたのかなと思っております。
役人の対応ののらりくらりした対応を〝暖簾に腕押し〟と表現することがありますが、最後は役人らしい言葉でした。パブリックコメントで大きな山をつくっていた憲法や自治法の観点からの疑問については誰一人として触れないまま5回にわたる検討会議は終了しました。
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