2月13日開幕の平成7年第1回定例会に、仮称のつかない「札幌市誰もがつながり合う共生のまちづくり条例案」が提出されます。開幕の1日前に第1回定例会議の議案16号として案文が公開されました。令和6年12月17日の第5回札幌市ユニバーサル推進検討委員会に出された素案からどこが変わったのか検証します。

【前文①】和人開拓に肯定感を産む「先人の英知」と「飛躍的」を削除
素案の「前文」には、
札幌は、ゆきとみどりに彩られた豊かな自然環境の下、様々な背景を有する先人たちが、それぞれの伝統と文化を紡ぎ、育みながら、先進の英知を取り入れてくことによって、飛躍的に北方圏の拠点都市として成長してきました。
との文言がありましたが、「先進の英知を取り入れてくことによって、飛躍的に」が削除されました。
これは、第4回札幌市ユニバーサル推進検討委員会(令和6年8月30日)で、北原委員の次の発言を受けたものです。
先人とは誰か、それから、開拓の歴史というのも現状肯定につながっていくものだと私は受け取りました。こういうところに今話題に出たようなアンコンシャスバイアスが入っていると思うのですね。
札幌市では、本当にそれぞれの人たちが伝統と文化を紡ぎ、飛躍的に成長してくることができていたのかというと、私はそうではないと思うのですね。はり、あまり現状肯定的なことを不用意に出すべきではないのではないかと思うのです。
先人を和人開拓者と捉えた場合、「先進の英知を取り入れてくことによって、飛躍的に」成長した原動力となるとして、和人開拓者の功績を肯定的に捉えてることが、差別につながりかねないアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を生むという主張をそのまま受け入れたものです。
【前文②】市民と市が「あらゆる場面」で「一体なって」を削除
素案にあった
こうした状況を踏まえ、対話による相互理解の下、誰もが自分らしく安心して暮らし、活躍できるよう、私たちは、市、市民及び事業者が一体となって、社会のみらゆる場面において連携・協働して共生社会の実現に向けて取り組んでいく必要があります。
から「一体となって、社会のみらゆる場面において」が削除されました。思想統制色の強い言葉が削除されたのは、パブリックコメント2000件の力です。
【第1条 目的】市民と市が「一体なって」を削除
目的にあった
市、市民及び事業者が一体となって連携・協働して共生社会の実現に向けて取り組み、もって誰もがつながり合う共生のまちづくりに寄与することを目的とする。
からも「一体となって」が削除されました。第5回検討委員会(令和6年12月17日)での梶井座長の発言
○梶井座長 自分たちが一方向に巻き込まれて統合されてしまうのではないかという、まさに共生を強制されるのではないかという懸念を、ひょっとしたらお持ちなのかなと。私たちは、「市、市民及び事業者が一体となって」「社会のあらゆる場面において」というふうにあまり畳みかけなくてもいいかなと思いました。そのほうが誤解を生じさせないという意味でも表現をちょっと変えてもらうといいかなと思ったところもございました。
との言葉を受けたものです。
【第4条 基本理念】 互いに「その違い」を削除
基本理念の2項にあった
(2) 誰もが、互いにその違いを理解し合い、支え合い、及び助け合うことで、社会から孤立することなく安心して生活できること。
から「その違いを」が削除されました。
これは第4回検討委員会で出された札幌市身体障害者福祉協会長である浅香委員の「少なくとも違いという言葉を入れないでほしいと思っています」との強い声を受けたものとです。
しかし、前文に残された「多様性が尊重され」が「違いを尊重する」という理念を引きずったものである以上、単に取り繕ったものです。
【第6条 市民の役割】 「社会のあらゆる場面」を削除
素案では、
市民は、基本理念にのっとり、家庭、職場、学校、地域その他社会のあらゆる場面において、共生社会の実現に向けた取組を行うよう努めるものとする。
と「その他社会のあらゆる場面」が削除されました。
市民は、24時間、寝ても覚めても「共生社会の実現」に向けて努めることが義務づけられていましたが、努めなくても良い時間を持つことが許されました。
これもパブリックコメントの「①本条例は特定の価値観を押し付け、市民の多様性を否定するものである。(62件)などの批判を受けたものです。
素案と最終案を比較するとき、全体的には、強い批判に蓋をしただけの姑息な修正に止まりましたが、全体的には思想統制色はいくぶん薄まりました。これはひとえにパブリックコメントに提出された2068件の意見、1014市民の声でした。
たとえ小さな声であっても、不当を許さないという声が大きく集まれば、市を動かすことができる好例となりました。パブリックコメントに参加された皆さま、ありがとうございました。
しかし、なお「努めるものとする」との語句が残っています。これは法令文では市民への義務づけです。上から目線で市民への義務づけ条例である本質は変わっていません。
札幌市誰もがつながり合う共生のまちづくり条例案
議案第16号「札幌市誰もがつながり合う共生のまちづくり条例案」
令和7年(2025年)2月13日提出
札幌市長 秋元克広
(前文)
私たちは、誰もがつながり合う共生のまちを目指します。
誰もが、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されながら、共に生きていくことは、私たちの共通の願いであります。
札幌は、ゆきとみどりに彩られた豊かな自然環境の下、様々な背景を有する先人たちが、それぞれの伝統と文化を紡ぎ、育みながら、北方圏の拠点都市として成長してきました。
ところが、他者の個性や能力に対する理解が十分ではないことなどの社会における様々な障壁により、生きづらさを感じる方が多くいる現状にあり、また、近年における少子高齢化やグローバル化、価値観や生活様式の多様化などにより、これまで以上に多様性が尊重され、互いに支え合う包摂的なまちづくりが求められています。
こうした状況を踏まえ、対話による相互理解の下、誰もが自分らしく安心して暮らし、活躍できるよう、私たちは、市、市民及び事業者が連携・協働して共生社会の実現に向けて取り組んでいく必要があります。
そこで、私たちは、このような認識の下、共生社会を実現し、多様性と包摂性のある、誰もがつながり合う共生のまちをつくり、これを次世代に引き継いでいくことを決意し、ここにこの条例を制定します。
(目的)
第1条
この条例は、共生社会の実現に関し、基本理念を定め、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにするとともに、市の施策の基本となる事項を定めることにより、市、市民及び事業者が連携・協働して共生社会の実現に向けて取り組み、もって誰もがつながり合う共生のまちづくりに寄与することを目的とする。
(定義)
第2条
この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1)共生社会 差別や偏見がなく、誰もが互いにその個性を尊重され能力を発揮できる、多様性と包摂性が強みとなる社会をいう。
(2)誰もがつながり合う共生のまち 共生社会の実現によりつくり出されるまちをいう。
(3)市民 市内に住所を有する個人及び市内に通勤し、又は通学する個人その他の市内に滞在する個人をいう。
(4)事業者 市内において事業活動を行う者及びその他の活動を行う団体をいう。
(この条例の位置付け)
第3条
市は、総合計画その他まちづくりに関する計画の策定及びまちづくりに関する条例、規則等の制定改廃等に当たっては、この条例に定める事項との整合を図らなければならない。
(基本理念)
第4条
共生社会の実現に向けた取組は、次に掲げる事項を基本理念として推進されなければならない。
(1)誰もが、基本的人権を享有する個人としてその個性や能力を認められること。
(2)誰もが、互いに理解し合い、支え合い、及び助け合うことで、社会から孤立することなく安心して生活できること。
(3)市、市民及び事業者が、それぞれの責務や役割を相互に認識し、連携・協働して取り組むこと。
(市の責務)
第5条
市は、前条に定める基本理念(次条において「基本理念」という。)にのっとり、共生社会の実現に向けた施策を総合的かつ計画的に推進しなければならない。
(市民及び事業者の役割)
第6条
市民は、基本理念にのっとり、家庭、職場、学校、地域等において、共生社会の実現に向けた取組を行うよう努めるものとする。
2 事業者は、その活動を行うに当たっては、基本理念にのっとり、共生社会の実現に向けた取組を行うよう努めるものとする。
3 市民及び事業者は、市が実施する共生社会の実現に向けた施策に協力するよう努めるものとする。
(基本的施策)
第7条
市は、共生社会を実現するため、次に掲げる施策を実施するものとする。
(1)誰もが安全で安心な生活ができる多様性に配慮した施設等の整備
(2)市民又は事業者が行う前号の整備への支援
(3)日常生活又は社会生活上配慮を要する者の状況に応じた必要な支援
(4)個別の事業及び各種制度に係る分かりやすい情報提供
(5)誰もが互いに理解し合い、支え合い、及び助け合う意識の醸成その他共生社会の実現に向けた取組を推進するための啓発、広報活動等
(6)その他共生社会の実現に向けて必要な施策
(推進体制の整備及び財政上の措置)
第8条
市は、共生社会の実現に向けた施策を総合的かつ計画的に企画し、調整し、及び実施するための推進体制を整備するものとする。
2市は、共生社会の実現に向けた施策を実施するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
(誰もがつながり合う共生のまちづくり委員会)
第9条
共生社会の実現に向けた施策、当該施策の実施状況その他の共生社会の実現に向けて必要な事項について調査審議し、及び意見を述べるため、札幌市誰もがつながり合う共生のまちづくり委員会(以下「委員会」という。)を置く。
2委員会は、委員15人以内をもって組織する。
3委員は、学識経験者、公募に応じた市民その他市長が適当と認める者のうちから市長が委嘱する。
4委員の任期は、3年とする。ただし、委員が欠けた場合における補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。
5委員は、再任されることができる。
6前各項に定めるもののほか、委員会の組織及び運営に関し必要な事項は、市長が定める。
(委任)
第10条
この条例の施行に関し必要な事項は、市長が定める。
附則この条例は、令和7年4月1日から施行する。
(理由)
多様性と包摂性のある、誰もがつながり合う共生のまちづくりに寄与することを目的として、市、市民及び事業者が連携・協働して共生社会の実現に向けた取組を行うことができるよう、共生社会の実現に関し、基本理念を定め、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにする等のため、本案を提出する。




コメント