衆院選自民惨敗の真因
令和6(2024)年10月に行われた衆議院選挙で自民党が大敗したことは記憶に新しい。北海道では12ある小選挙区のうち自民党の当選はわずか3。札幌市にかかわる5つの選挙区では当選者ゼロという惨状だ。
なぜ、ここまでの惨敗を招いたのか。果たして「政治とカネ」だけが問題だったのか。
下記表は、衆院選での北海道1〜5区における党派別得票数、そして全国での党派別得票数である。公明や今回大きく躍進した国民民主党が北海道では小選挙区に候補を立てていないなど、前提条件が違うので道内と全国で単純な比較はできないが、一定の傾向は見てとれる。

際立っているのが立民の得票率の高さである。全国が3割を切っている中で、札幌圏では4〜5割という高率になっている。維新が立候補していない4区・5区では有権者の半数近くが立憲に投票している。
一方、自民党は事実上の立民との一騎打ちになった4・5区を除くと全国平均を大きく下回っている。全国平均分が維新の会に流れたかたちだ。
ここから見てとれるのは、自民党の基礎票は全国平均に近い4割程度と考えられること。であれば、今回の「政治とカネ」の批判を受けて、1割前後の票が維新に流れたとしても、第一党の座は揺るがないはずだ。
そう考えると、自民が惨敗した要因は、「政治とカネ」以上に札幌における立民の異様ともいえる強さであろう。全国的には3割にも満たない政党が、札幌では過半数前後の存在感を放つのである。
札幌における立民の強さはどこから来るのだろうか?
「共生社会」は立民の綱領・基本理念
下は立憲民主党の綱領・基本理念である。「共生社会」を創ることが結党理念としてはっきりと謳われている。


続いては令和3(2021)年3月に策定された「立憲民主党基本政策」の(ウ)である。「多様性を認め互いに支え合う共生社会」が打ち出されている。

https://cdp-japan.jp/about/basic-policies
さらに、立憲民主党が令和4(2022)年に発表した中長期政策「ビジョン22」には、こうある。これはユニバーサル推進検討会議の資料ではない。立憲民主党のビジョンである。
私たちは、多様性を尊重する自由な社会をめざし、国家が「人間はこうあるべきだ」というモデルを社会全体に押しつけるべきではないと考える。人は少しずつ違っている。「男らしさ」や「女らしさ」を押しつけ、「こうあるべきだ」と同調を迫る息苦しい社会ではなく、だれもが自分らしく生きられる社会、すべての人に居場所と出番のある共生社会を実現する。
生まれや性別、障がいによって差別され、自由な選択ができない社会は、公正に反する。多様性を尊重する自由な社会、自分らしく生きられる社会をつくるため、選択的夫婦別姓や同性婚を早期に実現する。
障がい者差別、性的指向や性自認に基づく差別、部落差別、国籍による差別、ヘイトスピーチなどあらゆる差別に厳しく対処するための法整備や教育啓発活動をさらに強化する。差別や不寛容の背景には社会の分断がある。同じ日本社会に生きる市民としての連帯感を醸成して分断を克服し、孤立を感じずにすむ共生社会をつくる。
https://cdp-japan.jp/campaign/sustainable_society
ここまでくると、「札幌市誰もがつながり合う共生のまちづくり条例」(共生社会推進条例)は立憲民主党の綱領・基本理念と同じである、と言い切ってもよいだろう。
すなわち札幌市が共生社会推進条例を制定することは、札幌市が立憲民主党の綱領・基本理念によって運営されていくことに他ならないのである。
理念条例を量産した立民市政
札幌市では、平成15(2003)年4月に上田文男氏が民主党・市民ネットワーク北海道の推薦を受けて市長選に勝利した後、22年に渡って民主=立民系市政が続いている。
平成27(2015)年の市長選では、上田文男氏から禅譲を受けた副市長の秋元克宏氏が民主党・維新の党の推薦、新党大地、社会民主党、市民ネットワーク北海道の支持を受けて当選。令和5(2023)年の統一地方選挙で3期目に入った。
この2代にわたる立民系市長が先頭に立って推し進めたのが「理念条例」の制定であった。両市長が制定した理念条例には次がある。
- 平成18(2006)年10月3日 自治基本条例
- 平成19(2007)年12月13日 札幌市中小企業振興条例
- 平成19(2007)年12月13日 市民まちづくり活動促進条例
- 平成20(2008)年11月7日 札幌市子どもの最善の利益を実現するための権利条例(子どもの権利条例)
- 平成21(2009)年3月30日 札幌市犯罪のない安全で安心なまちづくり等に関する条例(生活安全条例)
- 平成25(2013)年3月28日 札幌市安全・安心な食のまち推進条例
- 平成29(2017)年10月4日 札幌市障がい特性に応じたコミュニケーション手段の利用の促進に関する条例(障がい者コミュニケーション条例)
- 令和4(2022)年10月6日 札幌市未来へつなぐ町内会ささえあい条例
- 令和7(2025)年3月 札幌市誰もがつながり合う共生のまちづくり条例(共生社会推進条例)?
「札幌市男女共同参画推進条例」は、平成14(2002)年10月7日の制定で、上田市長が作ったものではないが、上田市長時代に強く推進された。
理念条例は、読んで字のごとく特定の市政の指針として「理念」を定めたもので、ほとんどの場合に「市の責務」と並んで市の政策に市民が協力することを義務づける「市民の責務」が盛り込まれている。
理念条例では、目的が理念の普及であるために必然的に広報・啓発が取り組みの中心となり、条例に則って多くの普及啓発事業が行われることになる。
問題は、条例に基づいて行われる広報・啓発事業の内容にまで議会や市民の監視の目が及ばず、事実上、これらの理念条例が、立憲民主党の理念の普及の場、立憲の党勢拡大の手段になってきたことだ。
理念の普及・啓発の名目で行われる立民の党勢拡大
平成20(2008)年11月に議会を二分しての大論争の末「子どもの権利条約」が制定されたが、これが立民理念の拡散の場になっている。
これは令和2(2020)年の策定の「第3次札幌市子どもの権利に関する推進計画」だが、18pの「第3章 計画の推進体系」には、
子どもの権利保障の現状について、実態・意識調査では、子どもが「いじめや虐待から守られること」「障がい、国籍、性別等による差別を受けないこと」「個性や違いを認められ、一人の人間として尊重されること」の3つが「大切にされていない権利」として多く挙げられており、いじめ、虐待、差別などの「人権侵害からの救済」と「お互いの違いを認め、一人一人の権利を尊重する意識の向上」の両面を一体的に進めていくことが求められているといえます。その上で誰もが、障がいや国籍、性別を始め、個々の多様性を認識した上でお互いを尊重するとともに、一人一人の成長や自立のために、適切な配慮や支援を行っていくという、子どもの権利にとどまらない基本的な人権理解の視点をもって、取組を進めることが重要です。

とある。これは、「子ども」という限定を外すと立憲民主党の理念とまったく一致する。
しかも、下記のように施策の一番に「子どもの権利の普及・啓発」が掲げられている。
子どもの権利の認知度は上昇傾向にあり、特に学齢期の子どもや保護者の認知度が比較的高い一方、乳幼児の保護者の認知度は低く、対象者の年齢や状況に応じた取組の工夫が求められています。毎年、新たに保護者になる方々も多くいる中で、子ども自身の理解向上とともに、着実な普及・啓発の取組を継続していくことが必要です。
「子どもの権利」の普及啓発という名目で、事実上、立憲民主党の理念の普及が図られているのだ。「子どもの権利条例」は、平成20(2008)年から17年に渡って立民の党勢拡大の手段となってきたのである。
秋元市政の平成29(2017)年10月に「障がい者コミュニケーション条例」が制定されたが、この条令の目的は
「私たちは、このような認識を共有し、一体となって、障がい特性に応じたコミュニケーション手段の利用を促進し、もって全ての市民が障がいの有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、ここにこの条例を制定する」
とあり、事実上「共生社会推進条例」の前駆条例となっている。
この条例でも「市民の役割」(第5条)として「市民は………る市の施策に協力するよう努めるものとする」とあり、市の推進する共生社会(立民理念)の実現に向けて市民は努力が義務付けられている。すなわち秋元市政による「共生社会」の強要は、「障がい者コミュニケーション条例」から始まっている。
札幌の「共生社会」(立民理念)は、条例制定以前から見えない蜘蛛の糸のように幾重にもわれわれ市民を縛っているのである。
LBGT差別解消計画になった札幌の男女共同参画
「札幌市男女共同参画推進条例」では、令和5(2023)年に実行計画である「第5次男女共同参画プラン」が始まったが、この「政策の柱①」(47p)では、
「社会全体で、多様な性の在り方への理解が広がり、学校や働く場である企業などにおいて性的マイノリティの方々が安心して過ごせるよう、講演会等の実施など周知啓発に取り組みます」


と、札幌市の「男女共同参画プラン」は、いつの間にか男女の枠を超えて、事実上のLGBT差別解消計画になっているのだ。いうまでもなくLGBT差別解消は立憲民主党の1丁目1番である。

しかも、このような立民の選挙公約を「講演会等の実施など周知啓発に取り組みます」と言って札幌市は公費で周知啓発すると言っているのである。
永遠に傍流化する自民党
以上で見たように、札幌市においては、民主・立民系の市政が20年以上に渡って続き、理念条例の策定と、その条例に基づいた理念の普及啓発のという名目で、民主・立民系の党勢拡大が継続的に続けられてきた。
すなわち、令和6(2024)年衆議院選挙の結果、すなわち札幌市における立民の圧倒的な優位は、20年以上にわたって積みあげてきた民主・立民系の市政の必然と言えるだろう。
さて現在議会審議となっている共生社会推進条例である。これは疑問を差し挟む余地なく立憲民主党の綱領・基本理念そのものの条例化である。これまでは部分的だったものだが、正体を隠さなくなったいうべきか。
共生社会推進条例が成立すると、札幌市の民生分野の基本条例として札幌市を支配していく。しかも、このような理念条例が短期間で廃止されるとは考えにくく、札幌市が存続する間、すなわち永遠に近い間、効力を発揮する。
このことは札幌市が永劫的に立憲民主党の理念によって運営されることを意味するとともに、札幌市においては自由民主党が永遠に傍流政党に陥ることを意味している。
一方、これが自由民主党の綱領(平成22年 綱領)である。
我々は、日本国及び国民統合の象徴である天皇陛下のもと、今日の平和な日本を築きあげてきた。我々は元来、勤勉を美徳とし、他人に頼らず自立を誇りとする国民である。努力する機会や能力に恵まれぬ人たちを温かく包み込む家族や地域社会の絆を持った国民である。
家族、地域社会、国への帰属意識を持ち、公への貢献と義務を誇りを持って果たす国民でもある。これ等の伝統的な国民性、生きざま即ち日本の文化を築きあげた風土、人々の営み、現在・未来を含む3世代の基をなす祖先への尊敬の念を持つ生き方の再評価こそが、もう1つの立党目的、即ち「日本らしい日本の確立」である。

当然のことながら、自民党の綱領は、共生社会推進条例=立憲民主党の綱領・基本理念と相容れない。市民社会をマイノリティとマジョリティに分断してマイノリティ目線で社会を書き換える共生社会推進条例は「現在・未来を含む3世代の基をなす祖先への尊敬の念」を否定するものだからである。
札幌市議会の自民党議員には〝共生社会推進条例のどこが問題なのか?〟と首をかしげる方も少なくないと聞く。そうした先生方には、どの綱領を支持するのか、考えていただきたい。
コメント