社会に混乱と分断
パブリックコメントに寄せられた意見で、移民流入に対する不安に続く多いものとして、この条例が社会に混乱と分断をもたらすという意見が挙げられます。
- 本条例は社会の混乱、分断等につながる懸念がある。(類似意見80件)
- 共生を強調した教育が、子どもたちの間で分断や対立を生む可能性がある。特定のグループを過度に強調することで、他のグループや個人が軽視されていると感じ、新たな不満や不平等感が生まれるおそれがある。(類似意見1件)
- 基本理念に関する記載のうち、「当事者が抱える生きづらさを社会全体で・・・」とあるが、判断基準が当事者の感情由来となることにより、悪意のある当事者が主張したときに反論することができなくなってしまう。どこかに判断基準を作らなければ恣意的な運用(悪用)がなされる危険がある。
「共生社会」の押しつけが、逆に社会の混乱や分断をもたらすという意見です。
このことは、札幌市のいう「共生社会」が、ユニバーサル推進検討会議のメンバーたちがさんざん議論していた、社会をマイノリティとマジョリティの分断した上で、マイノリティの視点からマジョリティ社会を書き換えるというイデオロギーに対する本能的な拒否反応であると思われます。
共生社会はDEI社会
これらの意見について「札幌市の考え方」どうのでしょうか。
本条例は、価値観や考え方の違いも含め誰もが何らかの違いを有する当事者との前提の下で、多様性と包摂性が強みとなる社会の実現を目指すものであり、社会の混乱や分断を招くものではないと考えています。
という回答の一択です。札幌市がいう「多様性と包摂性が強みとなる社会」とは、まさにトランプ政権が追放を決めた「DEI」のことです。
条文は「DEI」という打ち出しはしていませんが、条例案を検討したユニバーサル推進検討委員会での例えば北原委員のこんな発言
なぜこういった人々がバリアを感じているのかというと、それをつくってきたマジョリティ社会に目を向ける必要がある。マジョリティ社会を見直すことでマイノリティが生活しやすくなるという視点をはっきり盛り込んでいただければというふうに思います。
また橋副座長のこんな発言で明らかです。
現在の社会のありようは、いわゆるマジョリティのまなざしによってつくられているのではないかと疑ってみるということです。多様な人々がインクルードされている社会をつくるには、現在の社会を少しよいものに修正していこうというところから始めるというよりも、現在のありよう自体を一度捉え直してみるところから始まると思います。まずは、私たち一人一人が社会を見る、社会を考える際のまなざしを問い直す、考え方を問い直すということです。
DEIが深刻な社会混乱と分断をもたらしていることを顧みれば、札幌市の「考え方」は、「本条例は社会に混乱と分断をもたらしているDEIを目指すものであり、社会の混乱や分断を招くものではないと考えています」となって、論理矛盾としかいいようのない回答となります。
こうした不安を払拭するために札幌市は、「マイノリティ・マジョリティの分断論」について見解を表明すべきでしょう。
条例は憲法違反
「思想の押し付け」、思想・信条・良心の自由が保障されている「憲法違反」という意見も多く聞かれました。
- 日本国憲法では、基本的人権の尊重、思想・信条・良心の自由が保障されているが、本条例は理念を強制するものであるため、憲法に違反する可能性がある。(類似意見50件)
- パブリックコメント資料上の「市、市民及び事業者が一体となって」「異なる方向性の下で取組を進めることがないよう」といった表現は全体主義につながるものであり、思想の自由を侵害するものである。
- 個別の事業や制度に関する情報提供や、互いの違いを理解し支え合う意識の醸成など、共生社会の実現に向けた取組は、思想の押し付けに思える。自由意思を侵害してはならない。
こうした訴えについても札幌市はほぼ前述と同様の下記「考え方」を繰り返すだけとなっています。
本条例は、価値観や考え方の違いも含め誰もが何らかの違いを有する当事者との前提の下で、多様性と包摂性が強みとなる社会の実現を目指すものであり、思想や行動、表現等のあり方について強要するものではないため、憲法に違反するものではありません。
しかしながら、DEIが社会に混乱をもたらし、分断を招いていることで賛否の論争を呼んでいるのであれば、これを条例で市民に強要するのは、市民の思想・信条・良心の自由を直ちに冒すものでは無いとしても、行政の中立公正を定めた憲法第15条は「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」との規定に抵触するものでしょう。
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