【共生社会条例パブコメまとめ③】LGBT関連への疑問・不安が190意見

札幌市共生社会推進条例

共生社会条例に寄せられたパブコメのまとめの最後です。いわゆる「LGBT」関係のコメントが関連意見も含め190意見と大きな山をつくっています。寄せられた懸念を分けるとおおむね下記のようになるようです。それぞれの意見に対する札幌市の回答を見ると、この問題に対する札幌市の「考え方」が伺えて興味深いです。

性的マイノリティとマジョリティ

性的マイノリティ政策に対する不安がコメント数で大きな山を占めました。次のような意見が見られました。

  • 性被害の増加等のおそれがあり、性的マイノリティとの共生に懸念がある。(類似意見43件)
  • 性別による区別のあるスペースの運用は必ず生物学的な性別で分ける必要がある。これは差別ではなく、区別である。(類似意見11件)
  • LGBT理解増進法を推し進めることに反対。条例を制定する必要はない。(類似意見5件)
  • 性的マイノリティへの過剰な配慮でマジョリティが不便を被ることはしないでほしい。(類似意見4件)
  • 性的マイノリティ(LGBT)と一括りにすることに懸念がある。(類似意見3件)
  • LGBT理解増進法では、性自認と性同一性障害の違いが明確でないため、女性専用施設に男性が侵入する可能性がある。国会議員は問題ないと言うが、具体的な明記がない限り問題が発生するだろう。

アメリカのトランプ政権は、就任初日に生物学的性以外の性を認めない大統領令を発しましたが、性の多様性を広げていく姿勢には強い抵抗感が示されました。これらについて札幌市の回答はおおむね次のようなものです。

性的マイノリティを利用した(装った)犯罪行為は決して許されるものではありません。身体の性とジェンダーアイデンティティが異なるトランスジェンダーのほか、性の在り方は多様で、L・G・B・T以外にも様々な性の在り方が存在しており、性的指向やジェンダーアイデンティティは、本人の意思で選択したり変えたりできるものではありません。

本市としては、そのような性の在り方のために日常生活において深刻な困難を抱えている方の生きづらさを解消したいと考えており、多様な性の在り方への理解の促進と支援が重要であると考えています。トイレや更衣室など、性別による区別のあるスペースの運用については、頂いたご意見を踏まえ、安全性の確保に配慮しながら慎重に対応してまいります。

多くの人が性的マイノリティとの共生に懸念を抱いていますが、札幌市は「懸念を抱く側」に寄り添うつもりはないようです。

子どもたちへの影響

大人はまだ自己責任の範疇で捉えることができるとして、懸念されるのはまだ自我の確立していない子どもたちへの影響です。

  • 性的マイノリティへの理解促進は、子どもの性のモラルや家庭の崩壊を助長するおそれがある。(類似意見26件)
  • 性的マイノリティを扱う教育の推進に反対。(類似意見16件)
  • 条例で扱われるテーマ(性的マイノリティ、ジェンダー、民族、宗教など)は複雑で繊細であり、子どもが発達段階に応じて十分に理解するのは難しい。不十分な説明や不適切な指導が行われると、子どもが誤解や不安を抱くおそれがある。(類似意見1件)

子どもへの悪影響について札幌市は、むしろ逆だと言います。

性的マイノリティの10代は精神疾患におけるハイリスク層とされ、自殺念慮や自殺未遂の経験をした人も多いという調査結果もあり、ハラスメントや困難な経験などから、不登校を経験する人もいます。こうした問題は性的マイノリティへの理解不足が一因であるため、10代を含む幅広い年代への理解促進に取り組む必要があると考えています。

たしかに性的少数者には、思春期に自分のせいのあり方について深刻な悩みを抱える人は多いのでしょう。しかし、自我の確立していない思春期だからこそ、「性の多様性」を教育現場で強調することは逆に精神的な不安定さを呼ぶのではないでしょうか。

札幌市の「考え方」は、「救われる子供」と「壊される子供」、この両者の比較検討をした結果でなければなりません。

統計数字で示すべき

コメントの中にはこのようなエビデンスに基づいた意見もありました。

  • 法務省の統計によると、2022年の性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する人権侵害事件の受理件数は全国で一桁である。生きづらさの解消をうたうならば、当事者の声をもっと聞き、札幌の状況も含めた統計を示すべき。(類似意見1件)

札幌市は次のように回答しています。

性的マイノリティの方々が抱える困難などの実態については、公的機関が実施する調査結果や複数の民間調査結果を参考にするほか、パートナーシップ宣誓制度利用者や市内の当事者団体などからも意見を聞いており、実態や意見の把握に努めております。本市では性的マイノリティの方々が抱える生きづらさを解消するため、当事者や市民の意見を参考にしながら、引き続き差別や偏見がなく、誰もが互いにその個性を尊重され能力を発揮できる共生社会の実現に向けて、取組を進めてまいります。

「実態や意見の把握に努めております」とありますが、札幌市は具体数字を出すべきだったのではないかと思います。

性はグラデーションか?

トランプ政権で明確に禁止とされたトランスジェンダーの女子スポーツへの参加を危惧する意見についてはこんなやりとりでした。

  • 札幌では欧米で問題となっている性のグラデーションの考え方が採用されているが、スポーツ大会で性のグラデーションに基づき、女性枠にトランスジェンダーや身体的男性が参加する可能性があり、懸念がある。

性的マイノリティへの理解促進の説明に使用される性のグラデーションの考え方は、スポーツ大会の対象を広げることを推進しているものではありません。スポーツ大会の対象については、競技の特性などにより、主催者において慎重に判断されるべきものと考えています。

対応を主催者に丸投げしたかたちです。

この意見にも「性のグラデーション」について言及されていますが、パブリックコメントには次のような意見がありました。

  • 性の多様性については、現在は身体の性、心の性、表現する性、好きになる性などと言われる。しかしこれは、セックス(生物学的性別)とジェンダー(社会的性役割、性的らしさ)を全て「性」と表現する、極めて乱暴で誤解を招くものである。性的マイノリティも、それぞれで悩みの種類が違い、一括りにするのは個別対応が疎かになるおそれがある。また、悩んでいない性的マイノリティもいることに留意が必要。
  • 性別は男女の二種類であり、グラデーションではない。子どもたちに性の多様性という思想を教えて洗脳するのは断固やめるべきで、子どもが自分で考え、迷いながら成長していく機会と安全を、大人は奪ってはならない。誰かが決めた共生の概念を、市民に押し付けるべきではない。
  • 本書上の「性的マイノリティ」の注釈について、「典型的とされてきた性のあり方にとらわれない人々」とはいったい何を指すのか明確ではない。恣意的な運用を防ぐためにも明記すべき。

いわゆる「性のグラデーション」について札幌市のこのリンクが参考になります。
https://www.city.sapporo.jp/shimin/danjo/lgbt/documents/2209ally02_03.pdf

性別とは一つにきめることはできない、混沌としたものだという意見に対して、トランプ政権が大統領令として発した定義に次があります。

(a)「性」とは、個人の男性または女性としての不変の生物学的分類を指す。「性」は、「性自認」の同義語ではなく、また「性自認」の概念を含まない。

【SO資料館】ジェンダーイデオロギーの過激派から女性を守り、連邦政府に生物学的真実を取り戻すアメリカ大統領令 2025/1/20(全訳)
合衆国憲法および合衆国法(合衆国法典第5編第7301条を含む)により大統領として私に与えられた権限により、ここに命ずる:第1項 目的全米で、性の生物学的現実を否定するイデオローグが、法的およびその他の社会的強制力を持つ手段をますます用いて、男性が女性として自認し、女性の家庭内虐待シェルターから女性の職場のシャワーに至るまで、女性のために設計された親密な男女別の空間や活動にアクセスすることを認めてい……

トランプ政権の見解を、さまざまなあり方の右端とするならば、生物学的性を完全に否定する「性のグラデーション」は左端となるでしょう。札幌市はどのような見解でしょうか?

性の在り方は、男女の2つだけではなく、明確に分けられるものではないことから、色と色の間に境界がないグラデーションに例えられます。抱える困難も様々で、周囲の理解不足から悩みを打ち明けられない方も多いとされています。本市では、日常生活において深刻な困難を抱えている方の生きづらさを解消したいと考えており、多様な性の在り方への理解の促進と支援が重要と考えています。

性の在り方は、男女の2つだけではなく、明確に分けられるものではないことから、色と色の間に境界がないグラデーションに例えられ、他の自治体など様々な機関でも使われています。

札幌市は「性のあり方」について明確に「性のグラデーション」を採用していることが示されました。

札幌市がこのような極端な性の捉え方をしていることは、共生社会推進条例だけではなく、男女共同参画など、多くの問題に関わっていきます。とくに子供の教育現場でどのような影響を与えるのか、市民として注視が必要です。

Q+をどうとらえる?

この問題には「性のあり方」の他、「性的指向」も含まれています。LGBTまでは良いとして、Q、さらに「+」まで含めていくと、問題は指数関数的に難しくなっていきます。

  • LGBTQのQ(クィア)には、小児性愛、動物性愛、死体性愛なども含まれるが、このような反社会的な嗜好も「性的マイノリティ」として認めるのか。

この質問に札幌市はどう答えるでしょうか?

LGBTQの「Q」については、自分の性が分からない方や迷っている方、決めていない方などを表す「クエスチョニング」や、典型的とされる性の在り方以外を包括的に表す「クィア」の意味で使用されることがありますが、一般的に「クィア」には、小児性愛、動物性愛、死体性愛の意味は含まないものと認識しております。本市が性的マイノリティ及びLGBTQという言葉を使用する場合、小児性愛、動物性愛、死体性愛の意味は一切含みません。

と札幌市は、「様々で明確に表すことは困難」と言いながらも、「小児性愛、動物性愛、死体性愛の意味は一切含みません」と断言しています。

しかし、札幌市が「本人の意思で選択したり変えたりできるものではない」ことを理由に「性的指向」を擁護するのであれば、「一切含みません」と断言することも困難なはずです。包摂性とは誰一人取り残さないことだと教わりましたが、特殊な性的指向をお持ちの方々の「生きづらさ」は誰が救ってくれるのでしょうか? 

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