札幌の「共生社会推進条例」について昨年11月に行われたパブリックコメントには、1014人・2068件の意見が集まりましたが、2月14日に札幌市が公表した最終とりまとめによると、最も多かったのが「外国人の受入れによる治安の悪化や、イスラム教徒による土葬問題など、様々な懸念がある」の410件。続いて「外国人に対しては、日本の文化や慣習等を尊重してもらうべき」の81件。外個人移民の増加について何らかの懸念を示している意見は総数で771件。取りまとめた意見数2068件の実に37%を占めました。
771件もの懸念の声
パブリックコメントでは「外国人」受け入れについて次のような意見が見られました。
- 外国人の受入れによる治安の悪化や、イスラム教徒による土葬問題など、様々な懸念がある。(類似意見409件)
- 外国人に対しては、日本の文化や慣習等を尊重してもらうべき。(類似意見81件)
- 日本の暮らし、文化及び伝統を守ること等を優先すべきであり、外国人と日本人を同列に扱うのはおかしい。(類似意見28件)
- GX経済圏はこの条例と関連しているように思う。外国人教師やインターナショナルスクールへの税金投入は日本人の子どもたちに負担をかける。税金は学校給食の質の向上等に使うべきであり、これは逆差別である。(類似意見15件)
- 異文化圏の外国人が起こす問題を無視して日本人に「共生」を強いることは解決にならない。(類似意見6件)
- 外国人参政権の付与につながる懸念がある。(類似意見6件)
- 札幌に住み続けたいと思う外国人の割合より、住み続けたいと思う日本人の割合を多くする方が持続可能な日本社会を構築できると思う。(類似意見3件)
- 外国人の道徳観を理解しているのか。自分たちの方が道徳的に上と決めつけ、上から目線でいきなりこちらが手を差し伸べるという、その姿勢こそ偏見、差別につながるのではないか。
- 多文化共生推進事業について、一律の支援には疑問があり、慎重な計画と説明が必要。日本人の生活水準の維持と、外国人への支援のバランスをどのように取るのか。
- 欧米における移民政策やその後の経過、日本における移民の現状を正確に把握するべき。外国人に起因した様々な問題について札幌市はどのような解決策を持っているのであろうか。
無秩序な移民受け入れは世界各地で深刻な社会混乱を巻き起こしていることは事実です。アメリカにおけるトランプ政権の誕生も同国の「侵略」とも評された民主党政権下の移民流入が背景にあると指摘されています。
またコメントでは、外国人を優遇するあまりに私たち日本人の生活がなおざりになるのではないかとの不安も多く聞かれました。
外国人に日本人と同レベルの「暮らしやさ」を提供
しかし、これらコメントに対する札幌市の「考え方」では、次のように積極的な受け入れ姿勢を示しています。
札幌市では、国による在留資格「特定技能」の創設や、千歳市への次世代半導体の製造拠点の整備などを背景にして、今後も外国人市民が増加していくことが見込まれます、そのため、受入側が感じる懸念や不安に対して、しっかりと寄り添いつつ、増加する外国人市民にも対応していくことなどを通して、受入側も含めた、誰もが安心して暮らせるまちづくりを進めることが重要と考えております(類似「考え方」8件)。
本市では、最上位計画である「第2次札幌市まちづくり戦略ビジョン(ビジョン編)」において、多様性と包摂性のある都市を目指すことを掲げたほか、現在策定中の第3次さっぽろ未来創生プランでは人口減少への適応として「外国人材に選ばれる環境づくり」を盛り込んだところです。都市の活力を維持していくためには、外国人を始め多様な人材の活躍が必要になると考えており、日本人も外国人も、誰もが安心して暮らせる社会となるよう取組を進めてまいります。
共生社会を通して札幌市は、言語も文化や歴史も異なる外国人に、私たち日本人と同レベルの「暮らしやさ」を提供しようとしていているのです。
一時滞在の外国人まで市民に
また共生社会推進条例は、市民の定義として「市内に住所を有する個人及び市内に通勤し、又は通学する個人その他の市内に滞在する個人をいう」と、一時滞在の外国人まで市民に含めています。
パブリックコメントでは「市民の定義について、日本国籍を有する者に限定すべき。(類似意見13件)」「市民の定義について、悪用される懸念などがあり、市民でない者等を条例上市民とすべきではない。(類似意見9件)」と多くの懸念が寄せられています。しかし、札幌市は
本条例は、障がいの有無、年齢、性別、国籍、民族等の違いにかかわらず、「差別や偏見がなく、誰もが互いにその個性を尊重され能力を発揮できる、多様性と包摂性が強みとなる社会」(共生社会)の実現を目指し、誰もが当事者との考えの下で制定を目指しているところであり、特定の立場にある方のみを対象としたものではありません。その上で、個々の課題に対する施策については、分野横断的な視点を持ちながら、推進していく考えです。
と同じ答えを繰り返すだけです。
共生社会という万能薬はトラブルを防ぐのか?
想定される移民流入に伴う混乱やトラブルについて札幌市は、
ご意見のとおり、過去や諸外国の事例を研究しつつ、目指す姿の実現に取り組んでいきます。また、文化や習慣の違いによって意図せずトラブルになる場合も考えられるため、そうしたトラブルを未然に防ぐため、外国人市民に日本の生活習慣等を学ぶ場の提供や、地域から孤立させないための支援に取り組んでいきます。
と言っています。札幌市は移民の大量受け入れに伴う混乱も「日本の生活習慣等を学ぶ場の提供」と「地域から孤立させないための支援」によって防げると考えているようです。
こうした札幌市の楽観論の背景には共生社会推進条例を貫く〝共生社会はあらゆる社会問題を解消する万能薬〟と考える空想的観念論があることは次の「考え方」から伺えます。
本市は、外国人市民を含む「誰もが互いにその個性や能力を認め合い、多様性が強みとなる社会」の実現を目指しており、外国人への支援等を通してこれに寄与していきたいと考えています。
本条例は、障がいの有無、年齢、性別、国籍、民族等の違いにかかわらず、「差別や偏見がなく、誰もが互いにその個性を尊重され能力を発揮できる、多様性と包摂性が強みとなる社会」(共生社会)の実現を目指し、誰もが当事者との考えの下で制定を目指しているところであり、社会における様々な障壁に起因する生きづらさを社会全体で解消していくよう、市民及び事業者と連携・協働しながら取組を進めてまいりたいと考えております。
すなわち、札幌市は外国人を高齢者や障がい者と同じ「マイノリティ」として括り、共生社会の推進という単一施策によって問題が解消できると考えているのです。これはあまりにも楽観的ではないでしょうか。
さらに憂慮すべきは、極度に理念に振った「共生社会推進条例」のなかで、外国人とのトラブルも〝市民の意識〟に解決が丸投げされていることです。
トラブル・混乱を市民に丸投げ
実際にパブリックコメントに対する札幌市の「考え方」は、外国人増加に伴う予想されるトラブル、混乱について、まったくの無策であることを次のように告白しています。
本市として外国人による治安の悪化に関する相談窓口の設置の予定はありません。なお、市内の公的機関の相談窓口等は市公式ホームページに掲載しているほか、同内容をまとめた冊子「札幌市相談窓口のご案内」でご確認いただくことができます。
札幌市として特化した対応をするつもりはなく、もしトラブルがあれば、自分で相談窓口を探して対応しろ! という突き放した回答でした。
パブリックコメントで示されたのは、予想される移民流入に対する諸問題について、札幌市にはアクセルはあってもハンドルやブレーキは無いという現実です。
行政は、空想的な理想を追いもとめる思想団体ではありません。予断なくすべての可能性を見越した現実主義こそが行政のあり方です。
共生社会推進条例が行政の空想的理想論を助長するものであってはならず、札幌市議会では市民が札幌市の移民問題について強い不安を持っている事実を踏まえて、共生社会推進条例によってもたらされるアクセルだけの移民政策について熟議が必要です。
パブリックコメントの最終報告を受け、北海道セカンドオピニオンは上記の趣旨により、2月16日付で札幌市議会議長に対して「札幌市誰もがつながり合う共生のまちづくり条例案について慎重な審議を求めます」との陳情書を提出しました。
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