北風よりも太陽を

私のオピニオン

第2次北海道アイヌ政策推進方策(素案)を拝見し、この施策が①アイヌの人々の生活向上、②アイヌ文化の振興と伝承、③アイヌの人々に対する差別の解消という3つの柱によって構成されていると理解しました。 ③についてアイヌの人々に対する「現在もいわれのない偏見や差別」が残っていることが事実だとしても、その原因を「アイヌの歴史や文化等について十分な理解が得られていない」ことだけに求めるのは単線的ではないかと考えます。

一般に、差別や排除的態度は、自らの価値観が脅かされる不安、相対的な地位低下の恐れ、共同体秩序の維持などの無意識的な現れとも言われており、原因は複合的です。 決して一つに解決を見出すことはできません。

こうした観点から素案全体を見た場合、「共生社会の実現」が掲げられているものの、アイヌの人々と一般道民との関係が一方向的になっていることが懸念されます。

例えば31頁に「アイヌの人々と海外の人たちとの対話やふれあい等を通じて」とあり、海外の人たちとの「対話」の促進がうたわれていますが、素案には一般道民との「対話やふれあい等」を目的とした施策や記述は見られません。

全体的に一般道民は、講演や講座などでコンテンツ化されたアイヌの歴史や文化を一方向的に学習する〝生徒〟として位置付けられています。逆のベクトルについての記述や施策は見受けられず、相互理解の「相互」が失われた状態になっています。

このような非対称性は、差別を解消に向かわせるものではなく、むしろ広げるものではないでしょうか。

2021年3月に日本テレビの情報番組でタレントが発した言葉が社会問題化し、社長が謝罪する事態となりました。事案の検証報告を読む限り、タレントにもスタッフにも差別意識は認められません。それにもかかわらずこの事案が大きな社会問題になったのは、アイヌの人々と一般社会が今なお未成熟な関係にあることを示すものでした。

わずか数文字の発言でしたが、事案の関係者たちは強い社会批判にさらされました。こうした事案を通して恐れるのは、アイヌの人々に対して「触らぬ神に祟りなし」と考える人が増えることです。アイヌの人たちに対する一般道民の萎縮や回避こそは、この素案に盛り込まれた理念や施策を阻む最大の障害といってよいものです。

素案4頁では、SNSの誹謗中傷に対して言及していますが、これに対して罰則を設けようとする議論もあるようです。一方で、意図的ではない発言をつかまえて、ヘイトだ、差別主義だと、あたかも犯罪者だと言わんばかりに強い非難を浴びせる事例もSNSでは見聞します。SNSによる誹謗中傷等への対策の中に、このような不当なレッテル貼りも検討の対象に入れなければ対称性を欠くことになります。

繰り返しますが、アイヌ差別の原因を「アイヌの歴史や文化等の無理解」だけに求めるのではなく、この施策案に内在するアイヌの人々と一般道民との非対称性に目を向け、そこからくる一般道民が持つ無意識の違和感を減らしていく努力にこそ求められると考えます。

令和元年に制定されたアイヌ施策推進法は制定から6年が経過しました。素案に何度も登場するウポポイは、このアイヌ施策推進法の目玉とも言うべき施設ですが、目標とした入場者数を大きく下回る状態が続いています。ウポポイの入場者だけでなく、減らない差別統計、減り続けるアイヌ人口などを見ても、現今のアイヌ政策は大きな課題を抱えているように見えてなりません。

しかし、この素案には、そうした問題意識が伺えず、ただアクセルを踏み込むものになっています。12月に内閣府は同法の見直しを行わないことを表明しましたが、北海道は、アクセルではなくハンドルに意識を向けるべきではないかと思われます。

イソップに「北風と太陽」という寓話があります。力ずくで相手を屈服させる北風のやり方よりも、太陽のように優しく働きかけることで相手が行動を変えるという先人の教えです。今、アイヌ政策に求められるのは北風ではなく太陽ではないでしょうか。

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