第1回 札幌市ユニバーサル推進検討委員会(令和5年11月8日)議事ピックアップ
Text KAIDO takumi
札幌市ユニバーサル推進検討委員会の第1回会議では、14名の委員(出席11名)が市の用意した資料を見ながら「共生社会」について自由に意見を交わしました。〝違いのある人々〟を一律にマイノリティと括った上で、マイノリティが〝生きやすい社会〟をつくるためには、マジョリティの意識変革が必要だという方向に議論は進みました。そしてマイノリティ対マジョリティの分断構造を前提にマイノリティ優位な社会を札幌型「共生社会」のモデルとして次世代に渡していこうという方向に話はまとまります。
議事録の全文は下記リンクから入手できます。 https://www.city.sapporo.jp/kikaku/universal/iinkai/documents/iinkai1-gijiroku.pdf
委員会メンバーは下記リンクを参照ください。 https://www.city.sapporo.jp/kikaku/universal/iinkai/documents/iinkai2-00-2.pdf
条例の目的は「思想」の普及
第1回会議は、札幌市が目指そうとしているものの概要と委員の紹介です。最初に小角まちづくり政策局長が次のように挨拶しました。
○小角局長 2040年代には65歳以上の人口が全体の4割を占めるということが見込まれ、外国人住民の増加など、まちづくりの大きな転換期となっているところでございます。
このような状況の中、次の100年を見据えまして、魅力や活力にあふれるこのまちを後世に引き継いでいくためには、やはり、年齢や性別、国籍、民族、障がいの有無などにかかわらず、誰もが、お互いの価値観や生き方を知り、認め合い、支え合う共生社会の実現が必要不可欠であると考えているところでございます。
このような考えの下、ユニバーサル(共生)という概念を、行政だけではなく、市民の皆様、そして企業の皆様と共有し、社会全体の価値観を高めていく、そういう取組を通じまして札幌市における共生社会を実現してまいりたい。
早くもこの条例の目的が「ユニバーサル概念の共有による共生社会の実現」にあり、市役所の思想を市民に普及することにあることが語られます。
学者と当事者だけの検討委員会
ユニバーサル推進検討委員会14名の委員中11名の出席が報告され、それぞれの自己紹介の後、座長に札幌大谷大学副学長の梶井委員を、副座長には北海道大学副学長の橋委員が選ばれました。この人選は事前に決まっていたようです。
なお公募委員の山口氏は2020年にはり師の免許を取った鍼灸師で、全盲の視覚障がい者です。また道下氏は護保険外、医療保険外のサービスを提供している会社を経営している看護師です。メンバーの内訳は次のような構成となります。
研究者:池田・梶井・加藤・北原・髙橋・宮入
当事者:浅香・山口(障害者)、柳谷(LGBTQ)、北原・結城(アイヌ民族)
関連団体:佐藤(社福)
大学の研究者を除けば、「当事者」もしくは当事者関連団体の人物です。すなわち条例の受益者になりかねないメンバーで委員会は構成されています。
利害関係のうすい一般市民から客観的な意見を聞いて、条例について多角的に検討するという姿勢はうかがえません。
市民の意識に踏み込む
資料説明に移り、事務局の松原課長から、「(仮称)共生社会推進条例の検討について」 の説明がありました。そしてこの条例制定の目的を次のように説明しました。
https://www.city.sapporo.jp/kikaku/universal/iinkai/documents/iinkai1-siryo02.pdf
○松原課長 札幌市が多様性と包摂性のある都市を目指していくためには共生社会の実現が必要と考えておりますが、これに当たっては、市民・事業者・行政の協働が不可欠と考えております。この協働を促していくためには、それぞれが異なる方向の下で取組を進めていくことのないように、共生社会の実現に向けた基本理念ほかを共有した上で、連携し合いながら、それぞれの立場の中で取組を進めていくことが重要と考えております。
続いて「共生社会推進条例」の実行計画である「(仮称)ユニバーサル展開プログラムの策定について」などの資料についての説明がありました。
https://www.city.sapporo.jp/kikaku/universal/iinkai/documents/iinkai1-siryo03.pdf
これらに関して浅香委員から
○浅香委員 物的な社会的障壁と、偏見だとかに通じるような社会的障壁もあって、社会的障壁というのはもっともっといっぱいあると思うのですけれども、そういう点があまり盛り込まれていないなというのが気になっていました。人の心が動かないと物的障壁も解消されないということで、その辺ももうちょっとうたっていいのかなというふうに思っています。
と、もっと市民の心の中に踏み込むように意見がありました。これを受けて梶井座長は「障壁が取り払われなければ、共生社会の推進は難しいというお話もいただきましたので、そういうご意見を踏まえた上でこれから意見交換に入ってまいりたいと思います」と述べて、「共生社会」をめぐる意見交換に入りました。
マイノリティ対マジョリティ
「共生社会」について、相内委員先は「やっぱり、一人一人のお話を聞くと、それぞれ皆さんが何をアイデンティティーにしているかとか、何を大事にしているかということは全然変わってきます」と発言しましたが、次の北原委員の提起からマイノリティ対マジョリティという方向に議論は進みます。
○北原委員 アイヌであって、女性であって、それから知的障がいであるというふうに、マイノリティ性というのは一人の人間の中にたくさん重なって出てくるものです。ですから、本当は、個別に扱うというよりは、それはもう重なり合っているもので、障がい者も女性もセクシュアルマイノリティもアイヌも、場合によっては外国人も結構重なっているということを考えて、連動できるような取組なのだろうというふうに思っております。
そして、では、なぜこういった人々がバリアを感じているのかというと、それをつくってきたマジョリティ社会に目を向ける必要がある。マジョリティ社会を見直すことでマイノリティが生活しやすくなるという視点をはっきり盛り込んでいただければというふうに思います。
北原委員は、高齢者から民族、性的少数者、外国人など多岐にわたる人々を「マイノリティ」という言葉で括り、マイノリティが感じているバリアはマジョリティが作ったものだから、マジョリティ社会を見直すことだと主張します。
共生社会はマイノリティの問題
この発言を受け、宮入委員は、「マイノリティの問題」を社会全体で受けとめるべきだと主張します。この段階で、高齢者の抱える問題、性的少数者の問題、外国人の問題など、問題の個別性はどこかに消え失せ、単に「マイノリティの問題」と括られていきます。
○宮入委員 マイノリティの問題を受け止めて、それをみんなの問題として、つまり社会全体の問題として受け止めていく、そういった流れが、この共生社会推進条例の検討過程から全市に広がり、市民で検討成果を共有していくことが、多様性が強みとなる社会というこのビジョンが掲げる理念に近づいていくことになると思います。
一方では、マイノリティの方々の意見にも耳を傾け、他方では、マジョリティの一般市民に対して、あなたたちも当事者であるという意識醸成にも意識しながら、どうやってこの条例を共有していくのか。それが重要だろうと本日のお話を聞いていて認識しました。
マジョリティ社会の見直とは「マジョリティである一般市民の意識改革」と提起されました。すなわち心の問題です。こうして議論は、私たちの心の内面に踏み込んでいきます。
○柳谷委員 先ほど北原委員も言っていましたが、ダブルマイノリティとか、トリプルマイノリティとか、本当にいろいろな側面から見て、マイノリティだったりとか、マジョリティだったりとか、本当に全ての皆さんにそういうことが言えるのではないかなというふうに思います。
マイノリティの人たちが生きやすい社会というのは、マジョリティの人たちが生きやすい社会につながっていくというのは、私も本当にそうだなと思っています。
マジョリティといわれる人々の中にもマイノリティ性があることから、意識改革は、自分の中のマイノリティ性を意識することだという提起がなされます。こうしてだんだんと「マイノリティ」という言葉が現実から遊離しはじめます。そしてとうとうこんな空想論が飛び出しました。
○山口委員 私は、世界に友情の輪を広げて、平和な世界を実現するムーブメントを起こしたいと思っています。この夢をどうやってかなえようかと思っていたときに、この検討委員会のことを知りました。
私は、共生社会とは、まさに人と人とが友愛で結ばれることにより訪れると信じています。だからこそ、まず、自分の住む札幌を友愛で結ばれた場所にしようと思っています。
ここまでくると共生社会は「政策」ではなく「宗教」です。
マジョリティは罪なのか
一方で、「マイノリティが生きやすい社会」づくりについてこんな声も聞かれました。
○橋副座長 現在の社会のありようは、いわゆるマジョリティのまなざしによってつくられているのではないかと疑ってみるということです。
多様な人々がインクルードされている社会をつくるには、現在の社会を少しよいものに修正していこうというところから始めるというよりも、現在のありよう自体を一度捉え直してみるところから始まると思います。まずは、私たち一人一人が社会を見る、社会を考える際のまなざしを問い直す、考え方を問い直すということです。
社会はマイノリティとマジョリティに分断され、マイノリティの「生きづらさ」をつくっているのはマジョリティの「眼差し」であるといって、マジョリティであることが何か罪悪のように語られていきます。そして橋副座長は、自分の中にあるマジョリティ=罪悪性を見つめるように求めます。
伝統道徳の断絶
第1回の議論はこんな提起で締めくくられます。
○梶井座長 フレームワーク、固定概念があるというご意見がありましたけれども、大人はそれを打ち壊すのがなかなか難しいと思うのです。それでも、この条例は、子どもたちに呼びかけるようなかたちにしたい。誰も取り残さないで何かあったときに声を掛け合える、支え合える、それから、そういうものに応答し合える、応答し合う社会、そういう共生社会を目指すのだよ
○牧野委員 親がしていること、考え方が、子どもにも影響しているようにも感じます。若い世代や子どもの頃から知ることで、意識が変わると考えます。意識が変わることで、環境も変わります。思いやりの心や自分事として考えることのできる多様な人への理解が、いつかは自分の住む環境が住みやすく優しい環境になると考えています。
マジョリティという悪しき意識を大人が打ち破るのは難しいので、子どもの頃からの教育が大切だという方向でまとめられました。ここにおいて私たちの社会で先人から培ってきた歴史や文化を受け継ぐこと、それらに根ざした日本らしい心のあり方は完全に遮断されました。
このように「共生社会」についての委員による自由討論は、高齢者、障がい者、LGBTの方々や外国人、アイヌ民族までを「マイノリティ」と括り、私たちの市民社会を「マジョリティ対マイノリティ」に分断した上で、「マイノリティ」優位な社会を「共生社会」と認める方向で議論は集約されていきます。
札幌型「共生社会」モデル
このような尖った意見交換が続きますが、最後の締めくくりに山内ユニバーサル推進室長が
○山内室長 本日いただいたご意見を踏まえながら事務局において共生社会推進条例や展開プログラムの内容について、次回以降、会議でご相談させていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
と挨拶して、この回に交わされた意見をベースに条例づくりを進めると発言しました。
すると梶井座長は少々興奮気味で、このように述べて第1回を締めくくりました。
○梶井座長 私は、大変わくわくしております。皆さん、本当に忌憚なくいろいろなご意見をくださって、これだけの力を結集できれば、本当に、市民の皆さん、それから次世代の子どもたちに札幌ならではの共生社会のモデルというものを何か示していけるのではないかと思います。時間は限られておりますが、次世代に残すというところを含めて皆様と一緒にまた進めていく、そういう意味では何か希望が見えた第1回目だったかなというふうに感じております。
このようにして「マジョリティ対マイノリティ」の属性対立を札幌型「共生社会」のモデルすることに「希望」を抱いて第1回委員会は幕を閉じました。
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